たられば書店 (仮称) 開業日誌

大阪・守口市に「まちの本屋」(たられば書店[仮称])を開こうとする試み

すべからく、こと、山本大介と申します。
大阪府・守口市近辺で本屋を開業しようと思っています。(今のところ)屋号は「たられば書店」。
日頃忘れてしまいがち/あきらめてしまいがちなこと、「もし、…し『たら』/きっと、…す『れば』」を叶えられそうな場所をつくりたいと思っています。

普段は4才の男の子の父親であり、現役「主夫」です。

いま、どんな本屋が求められているのか? ぼくはどんな本屋がしたいのか?
書店業にはほぼ就いたことのない、ずぶの素人ですが、そんなぼくが考え、実行する記録です。
※2014年12月以降、ずいぶん更新停止していましたが、再開しました。(2016.2.25~)

にちじょうごともちらほら書いています。にちじょうと本(屋)は地続きだと信じているので。



スタート・アット・チャバタケ

■ 初づくし

 昨日(3/21・祝)は、朝から、気持ちの良い晴天。ただ、少し肌寒かった。
 準備を当日の朝5時前になんとか区切りをつけ、3時間だけ寝て、8時起床。朝食を急いで食べて、駐車場まで車を取りに行って、本と備品を積み込み、妻と息子を乗せて、9時すぎ、守口市発。
 いざ、京都府相良郡・和束町の「和束町で、本をめぐる一日http://wazukanko.com/event/hon/)」会場へ。本が重いためか、いつもよりアクセルを踏み込まないと、走ってくれない我が愛車。そして、いつもより早めにブレーキを踏まないと、止まってくれない我がタント。
 車のなかでは、3人で氣志團「我ら思う、故に我ら在り」(仮面ライダーゴースト主題歌)を大合唱しつつ、1時間半、国道163号線をひたすら東へ。


氣志團 / 「我ら思う、故に我ら在り」MV

 生駒山をくぐり、大阪を抜け奈良に入ったと思ったら、すぐ京都、そしてまた奈良、そして京都。春の光を浴びて、キラキラと照り返す木津川沿いを走り、ある地点で、いっきに北上。和束町へ。
 和束町に入ると、もうそこは茶畑の郷。いきなり道が農道ほどの狭さになるとともに、急坂の繰り返しで、ちょっとこわかったけれど、11時少し前、なんとか「和束町で、本をめぐる一日http://wazukanko.com/event/hon/)」の会場、和束・茶畑丘の家「わづか舎」へ。
 その茶畑が広がる丘のうえにある、古民家を改修した小さな場所が、我が「たられば書店」という屋号をひっさげて出展する初めての(そして、個人的にも初めての)「一箱古本市」を開く舞台だった。

 開会が、11時からということもあって、すでに会場は、多くの人が集まっていて、主催者の吉田惠美さん(茶席書房うてな)を探すのもひと苦労。
 お忙しそうにしていた吉田さんにひと言だけあいさつさせてもらい、さっそく一箱古本店「たられば書店」の設営へ。本来、「一箱古本市」とは、もっと小さな「箱」で展開されるものなのだろうと思うけれど、吉田さんからも「本、たくさんもってきてもらって、大丈夫です」と言われていたこともあり、棚から箱から机まで、「わづか舎」の軒下のスペースに、多くの本を並べさせてもらった。前日、妻が持っている「ポストカード」を売りたい、と言ってくれ、それも並べた。
 売値は(ほんとうは、もっと1冊1冊、ていねいに値段を付けたかったが、準備する時間がなかったため)、50円(赤シール)、100円(無シール)、200円(青シール)の3パターンと、その他10冊ほどは付箋を付けて500~2,000円ほど、その他マンガのセットは輪ゴムで括ってそれなりに値段を付けた。
 本は、値段毎、サイズ毎、ジャンル毎に並べるのではなく、まずは、ランダムに、ほんとうにランダムに並べた。絵本や雑誌の大型本、それから文庫本などでそれほどこだわりのない本は、箱に入れて、「レジ」前に置いた。その後、夕方までに、何度か本を並べ替え、いつ見ても新鮮な棚であることを心がけた。

シェル・シルヴァスタイン作/村上春樹・訳『おおきな木』

 設営していると、さっそく、一組の、小さな子どもを連れた家族連れの人たちが絵本を手にとって見てくれていた。
 なんだか、とーっても、うれしかった。じぶんが売ろうとしている本を、目の前で手にとって見てくれていること、そのことだけでうれしかった。ジーン、ときた。
 その初体験の喜びをいつまでも忘れないでいよう、とそのとき、誓った。
 そして、その人たちは、いったん別の場所に移動されたが、また戻って来てくれて、なんと、「これ、ください」と2冊の本を差し出してくれた。
 こんなにもはやく最初のお客さんが来て、本が売れるとは思ってもみなかったので、ぼくはこれまたとてつもなく感激した。そして、「たられば書店、初めてのお客さん、初めて売れた本なんです。ちょっと写真撮っていいですか?」と無理をお願いし、iPhoneでパチリ。

 我が「たられば書店」の屋号を使って、いちばん最初に売れた本は、シェル・シルヴァスタイン・作/村上春樹・訳『おおきな木』と、長田弘・作/荒井良二・絵『森の絵本 (講談社の創作絵本)』の2冊の絵本だった。
 その2冊の本。そして、シェル・シルヴァスタイン村上春樹長田弘荒井良二の4名の名前は、これから一生忘れないと思う。これまで10代から30代にかけ、いろいろと考え、つかず離れずしながらも読んできた村上春樹の訳書が最初の本、というのが、なんとも感慨深かった。
 

おおきな木

おおきな木

森の絵本 (講談社の創作絵本)

森の絵本 (講談社の創作絵本)

  • 作者:長田 弘
  • 発売日: 1999/08/09
  • メディア: 単行本

 その後は、家で名刺カードに印刷だけして準備できていなかった「ショップカード」を切り取ったり、まだ値段を付けていなかった本や、マンガのセット本に値札を貼ったり、POPをつくったりしながら、本を手にとってくれる人たちと話し続けた。
 若い人、年老いている人、家族連れ、犬連れ、男性、女性、子どもたち、さまざまな人と話した。「どこにお店があるんですか?」と訊いてくれる人が何人もいたりして、その度「実は、まだお店はなくて、これから開こうと思ってるんです。大阪の守口市というところに。良かったら、ぜひ遊びに来て下さい」とショップカードを渡して説明した。
 守口市、とお話ししたら、「本籍がまだ守口市にありますよ」というおじさんがいて、そのおじさんとはかなり長く話させてもらった。生まれが八雲町(ぼくの自宅の隣町だった)で、京阪電車がまだ路面電車だったころを知っている人だった。今は尼崎にお住まいで、タスマニアについて研究されている方だった。そのおじさんには、ハウス加賀谷松本キック統合失調症がやってきた』を買っていただいた。
 たられば書店のTwitterを見て、足を運んでくださった女性もいて、その方は、奈良の一箱ふるほん+α市「大門玉手箱」(奈良市鍋屋町・初宮神社)に出展されている方で、「また、こちらにもぜひ出展してください」と案内カードをいただいた。とてもうれしかった。彼女は、マーガレット・ワイズ ブラウン作/レナード・ワイスガード絵/うちだややこ内田也哉子)訳『たいせつなこと (ほんやく絵本)』と、その他絵本、村上春樹夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997-2011 (文春文庫)』(買っていただいたのは単行本版)などを買ってくださった。「え、こんなに安く売られていいんですか? もっと高い値段を付けた方がいいですよ!(笑)」とアドバイスもいただいた。
 名古屋からいらしていた男性に、『新世紀エヴァンゲリオン コミック 全14巻完結セット (カドカワコミックス・エース)』+14巻発売時初回特典+真希波・マリ・イラストリアスのクリアファイル(ローソンキャンペーンオリジナル)を、雑誌連載は読んでいたが、単行本は持っていないとお話しされていたので、3,000円で売ろうとしてみたが、ダメだった。
 何か目玉商品がないとダメだなと思い、手元に置いておきたい本ではあったが、思い切って出品した藤子不二雄A『小池さん!大集合』は、机の上に面陣してあったのを「わー! これ欲しい!」と言って手にとってくれた女性がいたので、プッシュしたのだが、その場では買ってもらえず、ただ、数時間後、戻って来られて「やっぱり、買います」と言ってくれた。1,000円の値を付けていた。うれしかったので「文庫本、どれでも好きな本を持っていってください」と言った。
 またある若い男性は、これも、その日の目玉商品であった岡崎京子3点セット(『レアリティーズ』・『オカザキ・ジャーナル』・『岡崎京子 戦場のガールズ・ライフ』)を言い値通り2,000円で買ってくれ、「今度、伊丹市立美術館で『岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ』*1、やるみたいですよ」と言うと、ご存知だったようなので、お金をいただきながら「ありがとうございます。では、夏に伊丹でお会いしましょう」と言った。

統合失調症がやってきた

統合失調症がやってきた

たいせつなこと (ほんやく絵本)

たいせつなこと (ほんやく絵本)

小池さん!大集合

小池さん!大集合

レアリティーズ

レアリティーズ

  • 作者:岡崎 京子
  • 発売日: 2015/02/03
  • メディア: コミック
オカザキ・ジャーナル

オカザキ・ジャーナル

  • 作者:岡崎 京子
  • 発売日: 2015/02/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
岡崎京子 戦場のガールズ・ライフ

岡崎京子 戦場のガールズ・ライフ

■ 小さな店番

 ぼくが店番をしている間に、妻と息子は「和束町で、本をめぐる一日http://wazukanko.com/event/hon/)」会場内で出展されているいろんなお店をまわったようで、「お焼き」を食べたり、ピザをじぶんで焼いて、そして食べたり(ピザはぼくも食べた)していた。息子がいなくなったと思ったら、地元、和束町で活動されている方がやられていた絵本読み聞かせイベントに、知らない間に畳の部屋に上がり込んで、ちゃっかり座って聴いていたり。妻が、地元でとれた「和束茶」を淹れて持って来てくれて、それを飲んだら、とても甘くておいしかった。
 ひと通り、会場内を廻って、お腹も満たされると、息子は店番を手伝ってくれた。
 一昨日、寝る前、息子は「おとうさん、○○(じぶんの名前)な、あした『絵本屋さん』やるねん!」と大ハリキリで就寝したし、妻によると、今朝、起床して第一声が「きょう、○○、『絵本屋さん』やらなあかんねんやったー!」だったようだ。
 つくって持って行っておいた名札「たられば書店・○○」を胸に貼り、ぼくの横に座って、お金を受け取り、そして、お釣りを返す。「いらっしゃいませ」、「ありがとうございました」とあいさつする、ときには「絵本置いてますよー、どうですかー」と(小声で)呼び込みをしてくれたりもした。先ほど紹介したタスマニア島研究家の方が、ハウス加賀谷松本キック統合失調症がやってきた』(100円)を買ってくれたときは、500円いただいたので、400円お釣りを渡さないといけないところ、いただいた500円とレジから50円を渡してしまう、という、なかなかお客さん側に立ったサービスもしてくれたし、レジ内の10円玉で遊びだし、大量に地面にバラまくという失態もあったが、初めての店番にしては、かなり活躍してくれたので息子には合格点をあげたい。

 たられば書店の隣で「一箱古本市」を出展されていたのは、神戸市・六甲から来られたWさんだった。当初は、当日のイベントのひとつであるビブリオバトルに参加するだけのつもりだったが、「一箱古本市」への出展者が少ないということで、急遽、主催者の吉田さんから声をかけられ、慌てて本を用意されたようだった。
 来月、小学校に入学するという息子さんといっしょに店番をしていて、「一箱古本市」への出展者2組が、同じように「父子」で店番している、というのも、なかなかおもしろい光景だった。ただ、少し申し訳なかったのは、こちらがたくさんの本を持ち込みすぎていたため、Wさんのまさしく真っ当な「一箱」が目立たなくなってしまっていたのではないか、ということ。Wさん、ごめんなさい。

 午後になって、ぼくもお腹が空いてきたので、店番を妻と息子に代わってもらって、会場内を歩いた。
 地元・和束町の農産物やお茶を売っていたり、ビール、コーヒー、パン、素朴なお総菜屋さん、雑貨、占い(!)、陶器、いろいろな出展物があって、楽しめた。みなさんお話好きで、ブースの前に行くと、必ず話しかけてきてくれた。「わづか舎」の畳の部屋では、ビブリオバトルが行われていたり、自作の絵本をつくっていたり、いろいろなイベントが随時行われていた。
 ぼくは、ポテトサラダのサンドウィッチと、お総菜(にんじんを酢とオレンジジュースなどで漬けたもの、ピクルスをオリーブオイルなどで味付けたもの、オイルサーディン)を買って、和束茶を淹れてもらって、春の陽射しを浴びながら、たられば書店の店の向かい側のベンチに座って食べた。
 その間、妻と息子は、店番をしながら「たらればキリン」を緑の画用紙を切ってつくってくれており、とても良い出来で驚いた*2

■ うそ泣きYちゃん

 昼食を終え、また棚の本を入れ替えていると、背後から「おまたせしました!」の声。
 大阪・寝屋川市に住んでいたころの近所の3つ年下の友人(そして、ぼくとは年齢的に重ならなかったが、偶然にも、中学で同じ吹奏楽部に入部し、I先生から同じく大きな影響を受けることになった)Yさんと、娘さんのYちゃんのふたり。Yさんは結婚して、今は、和束町の隣町の木津川市に住んでいるので、先日、「近くで『本屋さん』やるから、もし時間があったら、ぜひ遊びに来て」と誘っていたのだ。ただ、Yさんは、20年来のペーパードライバーで、車が運転できなかった。JR加茂駅からバスに乗り、近くのバス停で下りてから徒歩30分ぐらいかかる道のり(それも急な坂が続く)を、3才の娘さんとふたりでやってくるのはちょっと難しいかな、と思っていたが、なんと、駅からタクシーに乗って、わざわざ駆けつけてくれたらしかった。さらにおもしろいのは、タクシーの運転手も、この「わづか舎」のことを知らずに、行く道で人に聞きながらやってきて、帰りも困るだろうということで、坂の下で「(メーター停めて)1時間待っていてあげる」と言ってくれていたようで、そこまでしてやってきてくれたYさん親子に(妻がいなければ)抱きついて感謝の気持ちを表したいところだった。Yさんと会ったのは、2~3年ぶりだったと思う。前に会ったときは、Yちゃんがまだ1才になるか、ならないかのときだった。
 Yさんは、息子にもお菓子のお土産を持って来てくれ、お菓子に弱い息子は、さっそくYちゃんと仲良くバリバリ、ペロペロし、すぐに仲良くなっていた。お菓子を平らげた後は、息子はすでに熟知していた茶畑のなかの迷路をくぐり抜け、そこだけお茶の木がない丘の上の広場のようなところに、4人で茶畑のなかに遊びに行って、しばらく遊んだ。
 Yさんにはこれまで「本屋さんをしたい」とか言ったことはなかったのだけど、Yさんは「きっと、いつか本屋さんか、純喫茶みたいなお店を始められるだろうな、と思ってましたよ」とぼくに言った。
 お店に戻って来て、せっかく来てくれたYさん親子に何かプレゼントをと思ったが、そこには本しかなく、売り物であった南Q太ピンクペッパー (1) (Feelコミックス)』を「おかあさん」としてきっと毎日悪戦苦闘しているだろうYさんに、神泉薫・文/三溝美知子・絵『ふわふわ ふーこどものとも0.1.2. 2014年 05月号 [雑誌])』を(もう3才ならちょっと退屈かとも思いながら)Yちゃんに、手渡した。すっかり息子と仲良くなっていたYちゃんに、Yさんが「さぁ、タクシーの運ちゃん待ってるし、もう帰ろ」と言うと、「ギャー!」と、最近覚えたらしい「うそ泣き」をしてたのが、ほんとうに「うそ泣き」の見本みたいな「うそ泣き」で面白かった。
 Yさん、Yちゃん、どうもありがとう。

ピンクペッパー (1) (Feelコミックス)

ピンクペッパー (1) (Feelコミックス)

  • 作者:南 Q太
  • 発売日: 2008/10/08
  • メディア: コミック

■ 最後のお客さん

 17時前になり、茶畑の向こうに明るい月が出てきた頃、気温が一気に下がって寒くなった。
 「わづか舎」の庭には「たき火」が灯され、他のお店もだんだんと閉店準備を始められていた。ぼくも、名残惜しかったけれど、妻とともに閉店準備を始めた。
 そこにやってきてくれたのは、若い女性の二人連れで、何度も棚を見に来てくれていたのを知っていたのでお話をした。いろいろお話をしているうちに、一人の女性は、「これ、ananの連載のとき、読んでました」と言って、村上春樹・文/大橋歩・画『おおきなかぶ、むずかしいアボカド 村上ラヂオ2』と『サラダ好きのライオン 村上ラヂオ3』を各100円で買ってくれたので、「もう閉店なので、文庫本、どれでも1冊、持って帰ってください」とぼくが言うと、彼女から「どれがいいかわからないので、選んでもらえますか?」と言われたので、二村ヒトシすべてはモテるためである (文庫ぎんが堂)』にしようかと思ったが、村上春樹国境の南、太陽の西 (講談社文庫)』を手渡し、「これは、若いうちに、必ず一度は読んでおいた方が良い作品だとぼくは思ってます」と言った。さらに、もう一人の女性にも(彼女はなにも買ってくれなかったが)、白石一文この世の全部を敵に回して (小学館文庫)』を渡して、「これ、差し上げますけど、たられば書店が開店したら、ぜったい来て下さいよ」と言った。そうしたら、『国境の南、太陽の西 (講談社文庫)』を渡した女性が、「あ、この人の作品、読んだことある」と言い、ぼくは「えっ、“ほんとう病”患者しか読まない白石一文なんて、こんな若い女性でも読む人がいるんだ」とびっくりして、とてもうれしくなった。じゃあ、きっと『国境の南、太陽の西 (講談社文庫)』も気に入ってくれるはずだ、と思った。

おおきなかぶ、むずかしいアボカド 村上ラヂオ2

おおきなかぶ、むずかしいアボカド 村上ラヂオ2

  • 作者:村上 春樹
  • 発売日: 2011/07/07
  • メディア: ハードカバー
サラダ好きのライオン 村上ラヂオ3

サラダ好きのライオン 村上ラヂオ3

  • 作者:村上 春樹
  • 発売日: 2012/07/09
  • メディア: ハードカバー
国境の南、太陽の西 (講談社文庫)

国境の南、太陽の西 (講談社文庫)

この世の全部を敵に回して (小学館文庫)

この世の全部を敵に回して (小学館文庫)

 ぼくと妻が撤収している間、息子は、「和束町で、本をめぐる一日http://wazukanko.com/event/hon/)」イベントの夜の部に出演される、バンド「トリオ・デ・オンブ・ニ・ダッコ(メス戌&Co.)」の男性の方ととても親しくなり、ずっと遊んでもらっていた(ほんとうに、ありがとうございます)。そして、撤収が完了する間際、「たられば書店」の「看板」の紙を外す前に、ぼくと妻と息子の3人で、その看板を背に写真を撮ってもらった。
 バンドの男性の方と仲良くなった息子は、その後の音楽の部も「演奏、聴くー!」と言って、会場のいちばん前の席に陣取っていたので「帰りが遅くなるけど仕方ないか」と思って、車を駐車場に戻して、会場に戻ってくると、なぜか妻とふたり、会場から外へ出て、月明かりの暗い空の下、バタバタと遊んでいた。退屈になったようで「もう帰る」とのことだった。

■ 今度はお店で

 ぼくらが「わづか舎」を後にしたのは、18:30ごろだった。
 暗くなった茶畑のなかの狭い農道を運転するのは、これまたこわかったが、とても名残惜しいような気もした。その後、隣町の笠置町にある「笠置いこいの館」でお風呂に入った後、そこで夕食をとろうとしたら、食堂の前には、20時でオーダーストップだと書いてあり、時計を見ると、20:05だった。仕方がないので、木津川市内まで行き、和食さと(木津店)で夕食。食べ終えて、店から出たのは、21:30すぎだった。
 車を走らせ、往路と同様、ひたすら国道163号線を今度は西へ走り始めると、妻と息子は後部座席で眠り始め、ぼくもかなり眠たかったが、NHK-FMを聞きながら、その日一日のことを思い返しながら、運転していた。

 初めての「一箱古本市」、初めての「たられば書店」という屋号を名乗ってのイベント、いろいろと思うことがあった。失敗も、「もっとこうしておけばよかった」ということもたくさんあった。きっと後々になって、妻や息子といっしょに参加し、店番をした、この日のことが「ぼく(ら)のはじまりだった」と思い返すときが来るのかもしれない、と思った。でも、それはまた別の話だ。ぼくは、まだ何も始めていないに等しい助走段階にいる。そのことは肝に銘じておかなければいけなかった。
 いっしょに参加してくれた妻と息子には、ほんとうに感謝しても感謝しきれないぐらいだった。そして、このイベントのことをfacebookグループで教えてくれた「これからの本屋講座」の参加者・Sさん、もちろん、主催者の吉田惠美さん、和束町のみなさん、何より、きょう、本を通じてぼくとお話ししてくれた(そして、本を買ってくれた)みなさんに感謝したかった。こんなにも楽しい「一箱古本市」をいちばん最初に経験してしまって良いんだろうか、と思えるぐらい、ほんとうに楽しかった。ありがとうございます。みなさんと、今度は、別の「一箱古本市」会場で出会いたいのはもちろん、ぜひ、守口市のたられば書店「店舗」でお会いしたい、そう思った。

 帰宅したのは、22:30すぎ。眠っている息子を妻が抱いて部屋まで行き、ぼくは駐車場へ車を停めに。それから、部屋に戻る途中で、空を見上げると、そこにも明るい月が出ていた。
 ぼくは、帰宅して、ひと息ついたとき、こんなふうにツイートした。

 そうだ、ぼくは、夢を見ることだけをしていてはいけない。ここ、守口市で(古)本屋として生活していく覚悟を持たなければ、と。

■ キューブキリン

 日が明けて、きょう(3/22)、朝はしっかり寝坊。妻と息子を、寝ぼけ眼で玄関で見送った。
 それから、二度寝したい欲望を抑えて、昨日の売上を計算。
 1冊50~100円で売っていた本がほとんどなので、それほど売上には期待していなかった。4~5,000円いってれば御の字かな、ぐらいだった。けれど、結果は【大阪→小倉(福岡)まで鈍行列車+缶コーヒー2本買える】ぐらいの売上金額。そして、奇跡的に、帳簿上と、レジ内の金額がぴったり一致していた。
 帰りの温泉入浴料、夕食代(デザート付)+お土産(和束茶など)+燃料代+準備品代は、じゅうぶん取り戻せたように思う。すぐに妻にもメールで報告した。11~17時の間に、合計31人(組)の方が、買っていただいた合計がそれほどになるとは思っていなかった。ほんとうにありがとうございました。

 長時間、時折、茶畑のなかに消えながら、店番を手伝ってくれた息子に「『本を』買ってあげたい」と思って、保育所帰りに寄った下島公園で、そのことを息子に告げると、「○○(じぶんの名前)な、もう買うやつ決めてんねん」と言うので、「えっ、何?」と聞き返すと、「キューブキリン!」とニコニコしながら答えるので、「そんな絵本、あったっけ?」と思っていたが、すぐに気づいた。動物戦隊ジュウオウジャーのおもちゃの「キューブキリン」だと。「わかった、○○、すごくがんばってくれたもんな、じゃ、明日買いに行こ」と、ぼくは言った。

 その後、公園で遊んでいる息子を見ながら、「とりあえず物件は空いています」「前回(2014年秋)の条件で、再度、これからオーナーさんに話してみますので、またお電話します」と17日に電話でお話したきりだったM不動産のYさんに、その後どうなっているかを訊ねようと電話すると、Yさんは不在だった。
 そして、息子と夕食中にYさんから電話があった。

 「大家さんは、前回の条件で契約することに前向きでいらっしゃいます。ただ、前回契約直前までいって流れてしまったことや、もともと大家さんも本屋さんを経営されていたこともあって、借りてくれるのはありがたいが、今時本屋さんの商売は大丈夫なのか? と、心配なさっている部分はありますね。それから、前回は、保証会社*3を間に通さずに直接契約することになっていましたが、大家さんの意向で、今回は、保証会社の審査を通過後の契約にされたいということです。ただ、前回も、念のためということで、保証会社に提出する書類は書いていただいていますので、それを再度確認して、また不備や修正があればご連絡しますので、来店していただければと思います。保証会社の審査は、だいたい1日もあれば終わりますよ」

 そうだった。全然忘れていたけど、例の「古民家」の大家さんは、以前、書店経営をされていたか、書店物件を持っていた方だった(参照)。心配されるのも無理はない。保証会社についても、すっかり忘れていたので、「保証会社の審査を受けることに問題はありませんが、それには費用がかかるんですか?」とぼくが訊くと、「はい。だいたい家賃の半分の審査手数料と、毎年更新時に更新保証料として家賃の何割か、または1万円ぐらいがかかってきます」とのことで、ちょっとそれはイタイなと思ったが、前回、迷惑をかけてしまった分、仕方ないかと思わなくない。
 あとは、リフォーム会社の選定などを少し話して、Yさんとの電話は終了した。
 昨日、久しぶりに1日中ほとんど立って動いたり、重い本を運んだりしていたので、きょうは全身筋肉痛だった。痛い太ももをさすりながら、遊んでまったく夕食を食べようとしない息子を見ながら、「なんとか、前向きには進んでいるのかな」、そう思った。

*1:http://artmuseum-itami.jp/jp/category/exhibition/schedule2/

*2:妻と息子が店番をしているときの方が、ぼくがしているときよりも断然売れていたのが、けっこう悔しかったが…

*3:よくわからないが、こういうところらしい→http://nextlife-sendai.co.jp/2014/10/05/hosyougaisya/

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