30年後もそこにある店 ~「金箔書房」(寝屋川市)へ~
■ 煙霧
昨日(3/8)は、「花曇り」といえば聞こえはいいけれど、朝から空も地上も靄がかっていて、ちょっと幻想的な空。でも、実はそんなものではまったくなく、PM2.5とか花粉とか黄砂の影響だった。空の向こうが乳白色にかすんで見えた。「煙霧(えんむ)」と呼ばれるものだという。
先週、マンガ家の瀧波ユカリさんとのやりとりを通して考えたことを、ぼくは、以下のように書いた。
ぼくは、今回の瀧波さんとのやりとりを通して、ぼくにとって「根を張る場所・帰る場所」ってどこかなぁと考えられたことがとても大事件だった。もちろん、それは、たられば書店を開店しようとしている大阪・守口市、と答えられればいちばんなのだけど、正直、まだそこまでの思い入れは、ここ、守口にはない。息子が生まれ、育っている場所としての大切な場所だという強い愛はあるけれど、守口は、まだぼくにとっての「根を張る場所・帰る場所」という場所ではない。それは、やっぱりぼくが生まれ育って、愛憎まみれる隣市、寝屋川市なのかもしれない、そんなことを考えた。
大阪から古本屋がすべて無くなるとして、最後に残る店 ~「一色文庫」(大阪市天王寺区)へ~ - たられば書店 (仮称) 開業日誌
そのことが、ずっと、これまた、心のなかに「引っかかって」いる。
この日誌でも、また、誰かに会って「たられば書店」のことを話すときも、いつも、ぼくは「守口に、守口に、守口に(開店したいんです)!」としつこいほど繰り返してきたけれど、「守口は、まだぼくにとっての『根を張る場所・帰る場所』という場所ではない」ということを、じぶんでじぶんに気づいてしまった。
ぼくが「守口に、守口に、守口に!」と言うとき、それは、ぼくにとって(唾棄すべき?)のオサレスポット(東京で言うなら、吉祥寺とか谷中とか、大阪で言うなら、堀江とか中崎町とか、別にどこでもいい)への、それはじぶんがそこに属することができない分不相応な身であるという自覚からくる怨念の、単なる「裏返し」でしかないのでは? と気づいたとき、守口で開業する意味というものが薄れてくるのを感じてしまったのだ(こわい)。
もちろん、今の(ネット)時代、店を出す場所、というのは、売上的側面からすると、あまり関係のないことなのかもしれない。でも、ぼくの場合、そうではない、「まちの本屋」になりたいと公言してきたし、それは、いまでもそうありたいと思っているからだ。
そして、もう1点。
これまで、ぼくは、「守口市に古本屋は(ブックオフや古本市場以外)1軒もない」と書いてきた。「だから、『守口に』古本屋をつくりたい」と。でも、それは、正確な意味では間違いだ。
大阪府古書籍商業協同組合のページで検索すると、「日光堂」(光町2-10)、「いっぷく堂」(日向町7-31)、「ブックハウス」(藤田町1-55-13)という3軒の古書店が加盟していることがわかる。
ただ「日光堂」も「いっぷく堂」も、自宅から近いため、そこに現在店舗はないことは確認済。組合に加盟したまま営業は停止しているのか、もしくは無店舗のネット通販のみのお店だ。藤田町の「ブックハウス」は、きょう(3/9)確認してきた。
住所(藤田町1-55-13)からすると、ファミリーマート藤田一丁目店(藤田町1-55-15)の北、京阪バス「藤田」バス停のすぐそばにある場所だった。ふつうの民家ではない外観で、たしかに店舗のようではあった。きょうがたまたま定休日だったのかもしれないと思い、Googleマップ(ストリードビュー)で確認すると*1、どうやらここも閉店(開店休業中)しているのか、ネット通販のみのお店と思われた。
そういうわけで、組合に加盟していて、且つ、店舗営業されているお店は「守口には1軒もない」と言っても良さそうだ。けれど、ぼくは、先日、nekokitiさんが運営する「関西 古本屋マップ」*2というwebページを見ていて、愕然とした。
そうなのだ、「ひまわり堂書店 守口店」(早苗町2-19)が駅の北西側で営業されていたことをすっかり忘れていた。…というか、都合良くじぶんの記憶から消していた(ひまわり堂書店さん、大変申し訳ありません…)。
それを証拠に、ぼくは、以前(2014年9月)の当日誌で、お店にも訪れたことも書いている(写真も撮影していた)。
「そうだ、あの、行ったことのない古本屋に行ってみよう」と、以前から気になっていた早苗町にある「ひまわり堂書店」(守口店)へ。 その小ささと本の探しにくさに、ブックオフや古本市場など、大型古書店に慣れきってしまっていることを実感。以前なら、こういう古本屋の方が好きだったはずなのに。先日読んだ増田喜昭『子どもの本屋、全力投球 (就職しないで生きるには 9)』で触れられていて、中学のとき以来読んでおらず、また読み返したくなった灰谷健次郎『太陽の子』(新潮文庫)を30円で購入。「30円って!」と思った。
初めての物件紹介&内覧 - たられば書店 (仮称) 開業日誌
そういうわけで、「守口は、まだぼくにとっての『根を張る場所・帰る場所』という場所ではない」、「守口市に古本屋は(ブックオフや古本市場以外)1軒もない」という、ぼくが「たられば書店」を開業するための、ぼくにとって重要な「言説」は、ガラガラと崩れた*3。
■ よすが
ぼくは、なにか「よすが(縁・因・便)」を目にしたくなった。触りたくなった。そう思って、過去の当日誌を読み返してみた。
そうすると、以前、夏葉社・島田潤一郎『あしたから出版社 (就職しないで生きるには21)』を読み終えたときに、ぼくは、
そうなのだ、本屋はぼくにとっても、決して明るい思い出というよりは、暗い思い出、暗黒時代の暗黒のときを過ごす場所だった。それは、ぼくにとって、図書館ではなく、(古)本屋だった。18才まで、京阪寝屋川市駅前の、中尾書房であり、中村興文堂であり、金箔書房(古本屋)に行くときは、いつも暗い気持ちだった。そして、孤独だからこそ、本屋に行った。孤独ではなく、誰かが側にいれば、本屋に行く必要などなかったかもしれない。
小さな希望 - たられば書店 (仮称) 開業日誌
- 作者:島田 潤一郎
- 発売日: 2014/06/27
- メディア: 単行本
と書いている。
そうだ、「金箔書房だ」と思った。
昨日、すでに、そのことに気づいたときは16時前で、今から寝屋川の金箔書房に行って帰ってきては、息子の保育所のお迎えの時間に間に合わなかった(図書室に本を返しに行かなくてはならなかったし、あまり遅くなるわけにはいかなった)。
そして、息子と「いっしょに金箔書房に行くこと」も良いかもしれない、と思った。以前、豊中のblackbird booksを訪れたとき(参照)以上に、金箔書房に息子といっしょに行くことは、いろいろな意味でレベルが高いように思えたが、「父親の原点」を見てもらうことも良いだろう、と思った。いつものことながら、息子にとってみれば、そんなことは「知ったこっちゃない」ことだけれど。
保育所帰りの息子を車に乗せ、息子に「これから、また、お父さん、『絵本屋さん*4』行きたいねんけどいい?」と訊くと、意外に素直に「うん、いいよ!」と快諾してくれたので、「みいつけた!」を見ながら、国道1号線→府道13号線(旧国道1号線)を東に走り、寝屋川市に入り、すぐ仁和寺の交差点で府道18号線(枚方交野寝屋川線)に入り、京阪寝屋川市駅に車を走らせた。時間にして、15分ぐらいの距離だ。
↑の動画は、その走行を撮影したもの(運転中の携帯電話の使用は禁止です!)。
この府道18号線界隈が、まさにぼくにとって、「よすが」の土地だ。「よすが」ではないかもしれないが原点だ。ぼくが生まれ、18才まで育った場所。まさかじぶんがこの府道18号線を、息子を乗せて走ることになるなんて、もちろん当時は思っていなかった。そして、約10年前、30才で大阪に戻ってきて、この辺りを車で走る度に、当時のいろいろなことがフラッシュバックして胸が苦しくなる。でも、まだ車で走っているから良いのだと思う。きっとじぶんの足で歩いたら、吐き気で一歩も動けないと思う。
【1:39】(←動画の進行時間)
前の車が右折した通りは、ぼくが子どもの頃は「三和センター」という市場があって、その市場に続く商店街(?)の左脇に書店があった。
すでに店名も忘れてしまったが、そこではよく「学年誌」や「てれびくん」などの雑誌を買ってもらった覚えがある。とても暗い本屋だった。
【1:51】
この裏手が、ぼくが18才まで育った場所(住所は「春日町」)だ。1:54あたりで「村川外科」という看板が見えるが、この病院がぼくの(今で言う)「かかりつけ医」だった。外科だけど、ともかく風邪をひいても、ケガをしても、「歯が痛い」以外、何かあるとここに連れて行かれていたように思う。同じく、その右手に「テーラーさかもと」という看板が見える。そこは、ぼくの同級生(ケンシ、と呼んでいた)の家で、きっと今では彼が店主としてテーラーを経営しているのだろうと思う。
【2:00】
さらに進むと、右手に見えるのが、ぼくが通っていた、寝屋川市立西小学校で、創立は明治36年(1903年→「ライト兄弟が人類初の動力飛行に成功した年」らしい!)、北河内郡九個荘尋常高等小学校として創立した歴史ある学校である。たしか、1983年、ぼくが9才(小学3年生?)のとき、80周年記念行事があったような覚えがある*5。
小学校のある高柳交差点から京阪寝屋川市駅に続く府道18号線は、(駅の西側に住む人たちにとっては)所謂「寝屋川のメインストリート」とでも言うべき通りで、大変狭い道なのに、バス(京阪バス)も歩行者も自転車も行き来する危険で賑やかな通りだ(った)。
【3:24】
右側に見えるのは、大利商店街(現在は、ベル大利商店街)で、寝屋川市の最大(?)繁華街である。今では、(たぶん、まだ)円広志が歌うテーマソング『ふれあいのまち』が流れている。
もちろんこの商店街にも、西側の入り口に小さいながら書店はあった。名前は忘れたが、いわゆる「町の本屋さん」的な小さな店舗だった。
もし、ぼくが、守口市ではなく寝屋川市に「たられば書店」を出店するのならば、きっとこの商店街か、その界隈ということになると思う。
【4:00】
そこから駅に向かう坂を上がりきる手前、今は「居酒屋ニパチ」が入っているテナントには、新刊書店として、ぼくがほんとうによく通った「中尾書房」があった。さらにその2軒駅寄りにも小さな新刊書店があった*6。
また、【4:08】で左手に見えるビルは、当時「長崎屋」だった。今では、もうテナント貸しのビルになっていて、そのなかに「ブックオフ寝屋川市駅店」がある。
そして、すぐに京阪電鉄の寝屋川市駅が見えてくる。ぼくが住んでいたころは、まだ高架駅ではなく、当時でも数少ない地上駅だった。
【5:07】
この画面のちょうど裏手には、ぼくが中学生になるかならないころだったかに「TSUTAYA寝屋川駅前店」ができて、ここもレンタルCDやビデオを借りるためによく利用した。当時、本はあまり置いていなかったような覚えがあるが、今は、全国の書店員さんのなかではけっこう有名なフリーペーパー「ぶんこでいず」を発刊されたりもしていて(参照↓)、書店としてもかなり充実しているようではある(まだ、ぼくは行ったことがない)。
【5:16】
左手に入る道(一方通行)が見えるが、この先には寝屋川市役所、(名門・)寝屋川高校などもあり、寝屋川市の中心地だ。たしか、この道を東に入ると書店があったが、駅の向こう側だったせいもあって、当時から、ぼくはほとんど行ったことはない。そして、【5:31】あたりで右側に見えるのが「アドバンス寝屋川」というショッピングモール。中には「イズミヤ」が入っており、1号館には、ぼくが現時点でけっこう好きな、イズミヤ系列のテナントには入っている「アミーゴ書店寝屋川店」がある。
ぼくが暮らしていた当時は、逆に1号館には書店がなく、2号館(2F)にしかなかったような覚えがあるが、よく覚えていない。今では、2号館3Fに「寝屋川市立駅前図書館 Carrel」があり、21時まで開館していて、便利になったなぁと、羨ましい。
■ 図書館のない自治体
少し、余談になるけれど、守口市に比べ、現在の寝屋川市は図書館を含め、本をめぐる環境は、かなり充実しているように思う。駅前の新刊書店も、TSUTAYA寝屋川駅前店、アミーゴ書店寝屋川店と、後に触れる中村興文堂がある。そして、どの書店も、きちんと色がある。金太郎飴書店ではない。そして、そのことは、子育て(支援)環境についても言える。子育て支援施設は、関西こども文化協会が運営している「つどいの広場」や、こどもセンター、地域子育て支援センターも市内各所にあり、子育て支援事業も充実している。対する守口市は、寝屋川市が「こども室」なのに対し、「こども部」と行政部署の格としては上にあるが、実際行われている子育て支援事業といえば、ほんとうに最低限のことか、お金(妊婦健診助成や医療費助成)の面だけで*7、より豊かで安全で楽しい子育て環境をつくろうとする試みは、行政としてはほとんど行われていない*8。
もちろん、寝屋川市が行政としてそれだけ子育て支援事業に取り組みだしたのには、児童虐待件数の多さなど、いろいろと理由はある。
ただ、守口市に「図書館がない*9」という現実が、それを象徴しているように思う。
国立国会図書館の2012年の情報によると、
日本図書館協会によれば、昨年度全国に市は767市あり、その内図書館を設置している市が754市です。従って図書館を設置していない市は13市で、内訳は以下の通りです。北海道・夕張市、青森県・つがる市/黒石市、茨城県・桜川市、栃木県・足利市(県立の分館あり)、千葉県・富津市/いすみ市、愛知県・清洲市、兵庫県・養父市、大阪府・守口市(「情報センター」はあり)、福岡県・宮若市・筑後市、鹿児島県・奄美市
(「公立図書館がない市を教えて下さい。 | レファレンス協同データベース」より)
とあり、767分の13にランクインしている。もちろん、市でなく、町・村格の自治体には、図書館がないところも多いだろう(参照:2009-03-22)。でも、このことは、大いに恥じてもいい事実だとぼくは思う。
■ 30年の月日
さて、長い道のりになったが、ここまでが昨日の、ぼくと息子の「金箔書房」への道のりである。
アドバンス寝屋川近くの駐車場に車を停め、ぼくと息子は、金箔書房へ向かった*10。
動画↑にもあるように、ぼくが、金箔書房の目の前まで来て(久しぶりに訪れた)、ちょっと感慨にふけっていると、そんな父のちっぽけな感慨など知らない息子は、どんどん店のなかに突入して行き、すごく慌てたのとともに「逞しいな、」とぼくは思った。そして、店頭の均一棚から読めそうなマンガを手にとり、店内に入る唯一の動線である階段にドシっと腰掛け、それを読み始めたり。
そのマンガに飽きると、息子は店内に入り、ザザザと店内を走り回ったかと思うと、「お父さーん、ここ、絵本なーい!」とか大声で言って、ぼくをほんとうに慌てさせた。なんとか息子が読める本がないかと必死で棚を探すと、(息子が先に見つけたのだが)『特捜戦隊デカレンジャーSPD新戦力ファイル (ヒーロー超ひゃっか)』と『仮面ライダーコレクション (超ひみつゲット!)』があり、それを読み始めたので(何度も「お父さーん、これ、なんて書いてあんのん?」攻撃には遭ったが)、ぼくも、金箔書房の懐かしい棚を少し眺めることができた。そして、店主のおじさんも、ぼくが、約30年前ほどから通っているときと変わらない方だった。物静かで、レジに座り、テレビを見ている姿が、そこにはあった。
特捜戦隊デカレンジャーSPD新戦力ファイル (ヒーロー超ひゃっか)
- 発売日: 2004/10/01
- メディア: 単行本
金箔書房は、写真を見てわかるように、これまでぼくが、訪問を通じてこの日誌で紹介してきた、どの古本屋さんとも違う。ごく普通の、町の古本屋さんだ。アダルト書籍・DVDだって、山ほど扱っている。
でも、ぼくは、昨日、ここが、やっぱりぼくの「よすが」だと思った。10代のぼくを支えてくれたのは、ここの場所とここの本だった。
息子が欲しいと言った『特捜戦隊デカレンジャーSPD新戦力ファイル (ヒーロー超ひゃっか)』と『仮面ライダーコレクション (超ひみつゲット!)』、それから、ぼくが気になった斎藤美奈子『本の本 (ちくま文庫)』、矢部智子『本屋さんに行きたい』を手にレジに向かい、駐車券サービスの説明や、商店街のポイントカードの説明をしてくださる店主の方の声は、当時の声で、ぼくは、思い切って「実は、ぼく、ここのお店に子どもの頃から通っていて、今度、守口に古本屋を開こうかと思っていて、その前に、ぜひこのお店に来てみたくて、きょう、来てみたんです」と話しかけてみた。
- 作者:斎藤 美奈子
- 発売日: 2012/06/01
- メディア: 文庫
店主のMさん(約30年通っていて、初めてお名前を知った)は、驚いた様子で「えっ、守口のどの辺?」と聞き返されたので、「まだ店の場所はきちんと決まっていないんですけど、目星はつけてあって、京阪の守口市駅と国道1号線の間です」と応えた。そしたらMさんは「組合には入んのん?」と言われ、ぼくは「はい、まだちょっと迷ってるんですけど、入るつもりです」と言うと、「二十日(はつか)会っていうて、組合にも、いろいろと集まりがあるんやけど、それに入ってるから、わからんことあったら、いつでも聞きにきたらええよ。でも、大変やで、組合も」とお話してくれた。
欲しい本が手に入り、はやく読みたい息子が「お父さーん、はやくいこーよー!」と急かすので(当然だ)、その後、ゆっくりとお話はできなかったけれど、Mさんは「とにかく仕入れが大変やで、今は。どうやって仕入れをしようと思てんのん?」「守口には、ブックオフみたいな古本屋以外に、古本屋があまりないので、住んでる人もけっこう売りたい人って、いるような気がするんですよ。なので、だから、まずは開店準備しつつ、近所にチラシをたくさん配って、お店のことを知ってもらって、売ってもらおうかな、って、そう思てます」、そんな会話をした。
「またゆっくり、お伺いします。ありがとうございました」と頭を下げて店を後にしたぼくは、息子の手を引きつつ、感動の渦に飲み込まれていた。
なんの感動だったのかは、うまく説明できない。
ただ、ぼくが、ぼくにとっての「よすが(縁・因・便)」を確認できたことは、確かだったように思う。
そして、息子とともに、寝屋川いちばん街商店街に入り、もうひとつの「よすが」でもある(ぼくが通っている頃とは外観はかなり変わった)「中村興文堂」に行き、息子が、動物戦隊ジュウオウジャーや、仮面ライダーゴーストの表紙がある学年誌を手に目をキラキラさせているのを見ながら、「やっぱり、俺は、守口でやりたいんかもな」と思った。
■ 中村興文堂
中村興文堂は、子どもの頃のぼくにとっては、少し敷居の高い書店で、学習参考書や専門書が多く並んでいた場所だった*11。ぼくも中高を通して、参考書をよく買いに来た書店だ(もちろん、買うだけでそれを開くことは滅多になかったが)。そして、高校受験を控えた中3になってからは「五ツ木の模試」の申込場所でもあった。
今の中村興文堂は、かなり明るい雰囲気になっており、ただ、品揃えは雑誌、単行本、文庫、そしてもちろん学習参考書も、当時と変わらずバッチリ整っていた。寝屋川出身の芥川賞作家・又吉直樹のブックカバーが、蒼々たる文豪のそれとともに売られていたのが、昨日、目に付いたことだ。
店内で息子が尿意を催してしまい、恐縮しながら店員さんにトイレを貸して欲しいとお願いし、トイレに案内してくれたとき、「きっと、俺も、子どもんとき、こういうことあったんやろな」と思った。
■ 古本屋の原点
中村興文堂を出て、駐車場に戻るとき、また金箔書房の前を通った。
金箔書房のMさんが、最近、ブログを始められていたのを知ったのは、この日のことだった。さっき、お話させてもらったときに「ブログやってはるんですね」とぼくが言うと、「そうやねん、ボケ防止にな」とMさん。そのブログは(この日誌とは違い!)短文で、淡々と書かれており、大変面白い。ブログを読むと、Mさんが昭和25(1950)年11月生まれだということもわかった。ちょうど、ぼくの親世代だった。1月16日の「古本屋で~す」と題された投稿では、
金箔書房は生まれて27年がすぎ、
28年目に入っている。昨日、開店以来初めての出来事が。
当店に金箔を買いに来られた。
仏壇の金箔がはがれてきたのでと。
70歳ぐらいの男性。スマホで金箔、寝屋川と検索したら
当店がでてきたらしい。
何の疑いもなしに買いに来られた。
びっくりした。「どこに売っているか知らない」と
聞かれたが思い当たらない。
とりあえず、仏壇の浜屋で聞いて
みられてはと答える。インターネットが無かったら、
こんな間違いは起こらなかっただろう!!!
とも、書かれてあり驚いた。28年目(1988年開店)ということは、ぼくが13才のころに開店したということだ。Mさんはそのとき38才だったことになる(ぼくは今41才だ)。そして、開店当初から、ぼくは通っていたことになる。もっと以前から金箔書房はあったような気がしていた。
私は、22歳から15年間、天地書房今木芳和さん
のもとで働かせてもらった。
今木さんのことを大将、大将と呼んでいた。
2014年3月14日のブログでは、Mさんが、天地書房で15年間修行されていたこともわかった(だから、もちろん同じ40才前後で開業するとしても、キャリアがぼくとは全然違う)。
天地書房については、一色文庫について書いたときに、少し触れた↓。
ぼくが好きでよく通っていたのは、新刊書店では「ルーブル1980」(もともとは「ルーブル書店」という屋号)と、古書店では「天地書房」だった*2。両店とも、駅前の「うえほんまちハイハイタウン」というビルの1Fに入っているお店で、両店とも決して広くはない店舗だけれど、品揃えや陳列の仕方に特徴(…カオス的な)があり、店に入るだけで楽しめた。
大阪から古本屋がすべて無くなるとして、最後に残る店 ~「一色文庫」(大阪市天王寺区)へ~ - たられば書店 (仮称) 開業日誌
ぼくの古本屋の原点は、金箔書房であることには間違いがない、揺るがない。
もうひとつ、ふたつ、古本屋には通っていた。例えば「ひまわり堂書店寝屋川店」(これも「ひまわり堂書店」!)、ここは、ぼくにとって、アダルト関係専門のお店だった(申し訳ありません。でも、とっても「充実」していたもので…)、そして、今はもうない寝屋川池田東郵便局近くにあった古本屋(名前は忘れた)も思い出深い。まだ小学生当時だったが、自転車で30分ぐらいかけてこのお店まで行き、マンガをよく立ち読みした。鴨川つばめ『マカロニほうれん荘 (1) (少年チャンピオン・コミックス)』を知ったのもこの書店だった。あとは、ビートたけしのオールナイトニッポンの番組内容が収録された本に出会い、「大人の香り」を教えてくれた(オ●ン●ンに真珠を入れる、とか。ほんとうになんのことだかわからないなりにおもしろく読んだ)。
だが、その後、ぼくが深く興味をもち読み始め、今も読んでいる小説や人文系の本、読書の基礎をつくってくれたのは、金箔書房だ。金箔書房で、100円均一棚にあった文庫本だ(その他の本は、中学生、高校生の小遣いではなかなか買えない)。
マカロニほうれん荘全9巻 完結セット (少年チャンピオン・コミックス)
- 作者:鴨川つばめ
- 発売日: 2010/11/01
- メディア: コミック
ぼくは、おこがましいけれど、できるなら、今の守口市に住む若い人にとって、30年後、「たられば書店がぼくの(古)本屋の原点です」。そう言われるような古本屋さんになりたい。
そして、さらにおこがましいけれど、できるなら、若い人だけではなく、今、守口市に住む老若男女にとって、金箔書房のように敷居低く、誰もが通え、「30年後もそこにある古本屋」になりたい。
息子と守口の「図書室(図書館ではない!)」に向かう車中のなかで、そんなことを考えた。
金箔書房のMさん、ありがとうございました。
また、ゆっくり、お伺いします。
*1:https://goo.gl/maps/SUoUy4tVjyr
*2:このページはていねいにつくられており、地図もGoogleマップを貼り付けるだけではなく自作されていて、ほんとうに見やすい
*3:ちなみに、もうひとつの「言説」は、お店のなかで「息子と育つ」というもの。このことは、まだ現時点では崩れていない
*4:「絵本屋さん」とは、今の息子にとって「本屋さん」の総称で、絵本専門店などを指すものではない
*5:ちなみに、ぼくの母(1947年生)も西小学校の卒業生で、母が通っていた当時に完成した鉄筋コンクリートの校舎に、ぼくも通っていた。当時、その校舎は古くて暗くて、校舎にあったトイレは言うまでもなく「幽霊便所」と呼ばれていた
*6:今から思うと、その2軒が両立していた(両立できていた)理由がわからない。たしか中尾書房ではない、小さな書店の方は、アダルト関係の書籍が充実していて、そちらのニーズがあったのかもしれない
*7:この助成制度だって、やっと府内の他自治体並になったのも、去年(2014年度)からだった
*8:もちろん、民間や個人の方は、公民館などで多くの活動をしているが、守口市で唯一誇れた特色ある「公民館」の取り組みも、来年度(2016年度)からは、公民館はすべて民間委託になるようだ。
*9:「図書室」はある。http://homepage2.nifty.com/cul/topmove.htm、及び、各公民館内
*10:ちなみに、この辺り、金箔書房のある「寝屋川いちばん街商店街」は、去年の夏、寝屋川市の名前を全国区にした事件(中1男女殺害遺棄)が起きた場所でもある
*11:余談だが、中村興文堂という書店は、我が家の近くにも守口店がある。吹田市にも豊津店が、交野市にも交野店があるようで、いわゆるチェーン店なのだろうか?