息子への告白 ~「blackbird books」へ~
昨日、451日ぶりにこの開業日誌を更新再開を再開した。
そのことで、少しじぶんに自信がついたのか、「facebookページ」まで開設してしまう。設定やらがよくわからないままに。
この辺境のページに最初に「いいね!」をくださったのは、Nさん。Nさんは「これからの本屋講座・第2期」でいっしょになった、沖縄・国頭郡金武町で「金武文化堂」を経営されている方で、関東圏外からの講座の参加者として、また、そのお人柄も、率直でとてもすばらしい方だ。
地域に根づいた、とくに子どもたちが集う本屋さんを続けられているNさんには、見習うべき点がたくさんあり、その方がファースト「いいね!」をしてくださった、ということが、何かとても象徴的であった。
Nさん、ありがとうございます。
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その、昨日の451日ぶりの日誌で、
2/4の「LVDB BOOKS」訪問から後の書店めぐり、及び、「勁版会(けいはんかい)」については、それぞれ別エントリで書いてみようと思う。
とりあえず再始動(ほんとうはまだそこまで実感できていない)のお知らせ。これまでの整理。 - たられば書店 (仮称) 開業日誌
と、ぼくは書いた。
とくに、まだ記憶に新しい、2/23に訪問させてもらった「誠光社」について、きょうは書こうと思っていた。
ただ、今朝目が覚めて、「きょうは、blackbird booksに行こう(息子といっしょに)」と思った。
blackbird booksは、営業日が「金曜日:15:00~19:00/土・日曜日:10:00~18:00」と限られていて、なかなか気持ちとタイミングと予定が合わないと訪れられないと思っていて(現に、これまでずっと気になっていたお店だったが、なかなか訪れることはできなかった)、きょうが「その日だ」と思った。
そして、実際に、お店に行ってきたので、きょうは、blackbird booksのレポート・感想を書いてみたい。
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貴重な本があったり、凝った内装だったり、小さなところだったりする本屋さんに息子(4才)を連れて行くことは、とても危険だ。言うまでもなく、4才男子は、そしてご多分に漏れず、ぼくの息子も、バイオレンスであり「壊し屋」であるからだ。
だから、最近訪れたこれまでのどの本屋にも、息子を同行して行くことはなかった。
息子を同行して行けるのは、例えば、近隣でいえば、京阪百貨店内にある旭屋書店や、イオンにある未来屋書店など、いわゆる大型店舗で、児童書のコーナーがあり、ある程度騒いでも許され、きちんと「見本誌」のようなものが用意され、それは「ある程度」「ビリビリ」にしても大目に見てもらえる本屋さんに限られる。
けれど、ぼくはなぜかきょう、おそらく「貴重な本があったり、凝った内装だったり、小さなところ」であるだろうblackbird booksに「息子と行きたい」と思ってしまった。
夕食の時間や、その他のことを考えると、きょう息子と保育所帰りに行くよりも、土日にゆっくり服部緑地にでも遊びに行きがてら訪れる方が得策だという心の声も聞こえたけれど、こういうのは、ほんとうに気持ちとタイミングを逃してしまうと、ズルズルと行けなくなってしまうものだと実感しているので、明日は保育所は休みでもあるし少しぐらい夜遅くなっても構わないだろうとも思い、なんとしても、「きょう、行く」と決めて、保育所まで(いつもより少し早めに)息子を迎えに行った。
ただ、当然、ぼくが「きょう、行く」と決意したからといっても、息子の意向というものがある。そして、迎えに行った息子に「きょう、お父さん、これから絵本屋さん(息子にとって、今は、本屋さんはすべて「絵本屋さん」なのだ)に行きたいんやけど、いっしょに行ってくれる?」と相談すると、「うん、いいよ!」と快諾してくれた(もちろん、その「快諾」のために、事前にポケモンのお菓子を渡していた)ので、気が変わらないうちにさっそく向かった。
守口から、blackbird booksのある豊中まで、車で約30分。
江坂から新御堂筋に入り、北大阪急行の線路が見えてきて、電車好きの息子が北大阪急行が走っているのを見てとても喜んでいるのを感じながら、服部緑地駅付近の駐車場に車を停め、そこから徒歩数分でblackbird booksのある「グリーンエクセル」というマンションに着いた。
そのマンションの前に着いて、1Fにあった路面店(カフェのような、雑貨屋のような)を見て、さらに周囲の雰囲気も感じて、ぼくはここにきて少したじろいだ。…どの店も「お洒落すぎる」のだった。そのカフェのような、雑貨屋のような店内でお茶(たぶん、外国の紅茶だ、と勝手に想像した)を飲みながら、店主らしき人と笑顔で話している女性は、決して守口にはいない種類の人だった。「息子、大丈夫か?」と思い、blackbird booksのお店の雰囲気と、店員さんの雰囲気によっては、すぐ退散する覚悟もした。
恐る恐る階段を昇り(その間も、「ひなまつり」の歌を大声で歌いながら、各階にあるお洒落そうなお店を覗き込み入ろうとする息子を必死で制止)、302号室の前に立ったぼくは、深呼吸をして「こんにちはー」と、扉を開けた。
「…せ、狭い!」。
申し訳ないけれど、blackbird booksの、ぼくの第一印象は、それだった。
お店のホームページでは、もっと広そうな印象だった。けれど、広さは、おそらく6畳ぐらいで、その壁面に本棚、そしてレジ、中央に平積み棚があるので、かなり狭く感じられた。
まず、息子が時間を潰せるものを! と、児童書の棚を急いで探し、息子の好きそうな本をこれまた急いで探したが、手にとってしまったのは、英語版の「おさるのジョージ」(『Curious George in the Snow』)だった。
「わ、『おさるのジョージ』やん! おもしろうそう! ここに座って読んでみたら?」と、小さな椅子に座るよう息子を促し手渡してみるも、予想通り「お父さん、読んでーやー」と言われ、店主の方の反応を見る間もなく、ぼくは読み始めた。もちろん、絵を見て適当に話をつくりながら。
- 作者: H. A. Rey,Margret Rey
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それから、少し店内の棚を眺めた。
とてもよい選書だった。ため息が出た(息子に話を考えながら絵本を読んで疲れていたせいもある)。上林暁『聖ヨハネ病院にて・大懺悔 (講談社文芸文庫)』がまず目に飛び込んできた。そして、その隣には夏葉社刊・ 山本善行さん監修の『故郷の本箱―上林曉傑作随筆集』や『上林暁傑作小説集『星を撒いた街』』も並べられてあり、さらに隣をみると、夏葉社刊行のほとんどの本が並べられてあった。
息子の動向を気にしながら、店内を廻っていると、背負っていたリュックが平積み棚の本に当たってしまい、バラバラと崩れ落ちてしまい、とても恐縮。「(息子ではなく)俺が本を崩してどないすんねん!」と心でつぶやいた。そのとき、店主のYさんが「大丈夫ですよ」と拾うのを手伝ってくれたとき、「あ、ちょっと長居しても大丈夫かもしれない」と思った。
- 作者: 上林暁
- 出版社/メーカー: 講談社
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息子にもう1冊、作・平田昭吾/絵・成田マキホ『したきりすずめ (世界名作ファンタジー12)』を読んだ(息子は雀の「舌」がどんなものなのかをしきりに訊いてきたが、無視)後、少しだけ店主のYさんとお話することができた。
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Yさんは、神戸の生まれで、現在は大阪・箕面市(豊中市の隣)の生まれ在住*1、もともとネット古書店を運営されており、その後、大阪市内かこの北摂地域で店を開業したいと思っていたところ、今の物件を見つけた。
この「グリーンエクセル」というマンションは、もともと住居専用の物件だったが、服部緑地駅からとても近いものの、築年数が経ち、古くなってきたので、なかなか借り手も現れなくなり、オーナーの意向で店舗も入居するようになり、今では住居として使っている人と店舗が混在している建物になっている。
ぼくは、もともと箕面市の生まれで在住で、いわゆるYさんにとっては地元に店を構えられていることをとても好印象として受け取った。大阪の北摂地域というのは、淀川以南、河内や和泉地域に住む大阪人にとっては「憧れ」というか、いわゆる「山の手」のお洒落な地域であり、その客層やその雰囲気を狙って、Yさんがこの場所に出店したわけではなく、Yさんにとっては、そこが「地元」であり「地元」に出店したに過ぎない。
ぼくは、守口に「古本屋さんを開業しようとしている」と告げると、「守口ですかー」と、なんとなくわかってくださっている様子だったので、「だいたい守口がどんなところか、わかりますか?」と訊くと、「以前、(同じ京阪電車沿線の)枚方に住んでいたことがあったんです」とYさんは言われ、それもまたぼくは親近感をもった。
そうやって、どんどん話が盛り上がってきていたところに、息子の「お父さん、おしっこー」という声。
(あんなにお店に入る前に「おしっこ、大丈夫か? 大丈夫か?」と何度も訊いて、何度も「大丈夫!」と言っていた)息子に対し、ちょっと怒りを覚え、「さて、どうしよう?」と思っていると、Yさんは店の奥にあったトイレを案内してくださり、息子はストックしてある本の間を歩いて、トイレへ。「汚さないか」と心配だったけれど、付いていくスペースもタイミングも逃して、息子が水を流す音が聞こえた。「ありがとうございます」と言うと、Yさんは笑ってくれた。息子も「ありがとう」とちょっと照れながら言えた。
そのうち、息子が「お父さーん、はやく、帰ろうよー」とか「お腹空いたー」とか言い出したが、ちょっと我慢させながら、ぼくはYさんと話し続けた。
やはり、blackbird booksも、最近ぼくが訪れた古本屋がすべてそうだったように、古書組合(大阪府古書籍商業協同組合)には加盟しておらず、仕入れは「客買い」のみ。ただ、地域の方はもちろん、ホームページなどを見て、遠方からも本を持って売りに来てくれるお客さんも多いようで、それほど仕入れに困っていらっしゃる感じではなかった。
それから、新刊やリトルプレス(「zine」)もたくさん扱っておられたので訊ねてみると、「新刊については、直接出版社に電話して仕入れています。大手は難しいですけど、小さな出版社なら喜んで対応してくれますよ。5冊以上だと送料を無料にしてもらえたりするところがほとんどです。リトルプレスについても、おもしろそうだと思ったものを直接仕入れています」ということで、もともと取次を通して、新刊書店開業を目指していたぼくとしては、「もう、今は、(京都の誠光社は、ちょっと別格だとしても)直取引が、わりと主流になってきているんだ」と実感した。
息子が椅子に乗って遊び出したり、高そうな刺繍入りの写真集を手にし始めたりして(さすがに、Yさんも「あ、それはちょっと…」とヒヤヒヤされていた)いたので、そろそろ限界かも、と思いつつ、その後もYさんにいろいろと話を伺って、最後に「どこか、最近というか、これまで行った古本屋さんのなかで、オススメはありますか?」と、ぼくが訊ねると、Yさんは少し考えられてから「神戸の『トンカ書店』ですかね。女性ひとりでやっておられるんですけど、もう長い間、継続されているのがすごいと思います」と答えてくださった。「そうですよね、古本屋は、わりと簡単に開業できるようですけど、『継続すること、維持すること』が、きっとすごく大変でしょうね」とぼくは言った。
きょう、ぼくがblackbird booksで購入させてもらった本は、
・西村繁男『日本の歴史 (福音館の科学シリーズ)』
・H.A.Rey『Curious George Goes to a Movie』
の2冊。
『おさるのジョージえいがをみる』は、もちろん息子希望。『日本の歴史 (福音館の科学シリーズ)』は、ぼくも息子も大好きな『やこうれっしゃ (こどものとも傑作集)』、『おふろやさん (こどものとも傑作集)』を描いた西村繁男さんの作品で、ずっと欲しいと思っていた。その本に、いろんな「決意」をして伺った、blackbird booksで出会えたことがうれしかった。
- 作者: 西村繁男
- 出版社/メーカー: 福音館書店
- 発売日: 1985/03/10
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Curious George Goes to a Movie
- 作者: H. A. Rey
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きょう、やっぱり、ぼくは、息子といっしょにblackbird booksに行ったことを、とても良かったと思った。
ぼくは、そうやって、子どもを連れて安心して訪れることができる本屋をつくりたい、そう改めて思えたからだ。かといって、子ども向けや絵本・児童書専門店にしたいわけではない。同時に、大人も楽しめ、ゆっくりできる場所にしたい。
blackbird booksを後にし、イオン南千里店に寄って買い物した帰りの車中で、どういう展開からそういう話になったのかは忘れてしまったけれど、初めて息子に「お父さん、絵本屋さんになりたいねんけど、どう思う?」と訊いた。
以下は、その会話だ(覚えている範囲で)。
ぼく「お父さん、絵本屋さんになりたいねんけど、どう思う?」
息子「えー、わからん」
ぼく「さっき、行ったみたいな絵本屋さんで、お父さんが『いらっしゃいませ』とか言う仕事やで」
息子「えー、〇〇(じぶんの名前)は、お父さんにトラックの運転手になってほしいねん。それでな、〇〇が隣に乗って、お父さんが荷物運ぶの手伝ってあげんねん」
ぼく「そうなん! 〇〇、そんなこと思ってくれてたん。お父さん、すごい嬉しいわ。でもさ、絵本屋さんだって、いっぱい本を運ばなあかんから、トラックみたいな大きな車運転するし、そのとき、〇〇も隣に乗って、絵本運ぶの手伝ってぇやぁ」
息子「わかった、手伝うよ。お父さん、『いらっしゃいませ』っていうの? お店屋さんみたいに?」
ぼく「そうやで。お客さんがきたら『いらっしゃいませ』、お客さんが何か買ったら『ありがとうございました』って言うんやで。〇〇もトラックだけじゃなくて、時間があるときはいっしょにお店におって、『いらっしゃいませ』とか『ありがとうございました』とか言いたくない?」
息子「言いたい!」
ぼく「じゃあ、お父さん、絵本屋さんになるためにがんばろうかなぁー」
息子「うん、そうしたら」
そんな話ができた。
ぼくは、涙が出そうだった。
ほんとうに、息子とそんな話ができる日が来るとは、書店開業を目指して数年、思ってもみなかった。
もちろん、去年の凹み時期(昨日の日誌を参照)には、到底予測すらできなかった。
そういう話が息子とできたのは、やっぱり、きょう、息子とblackbird booksに行ったおかげだ。
いっしょに「絵本屋さん」に行ってくれてありがとう、息子。
そういう場と時間を提供してくださって、ありがとうございます、blackbird books(Yさん)。